相続税での配偶者居住権についての検討課題(税法コラム)

相続税では、土地の権利、または土地の上に存する権利という言葉がよくでてきます。相続税申告書を作成する上でも、大切な内容となります。ただし、配偶者居住権との関係で、相続税と所得税での扱いの相違など、いくつか検討を要する課題も出てきているようです。

不動産

配偶者敷地利用権に関する疑問点

はじめに、相続税の小規模宅地特例に関連する基礎知識のおさらいです。

相続税における小規模宅地特例は、「土地又は土地の上に存する権利」について適用されるとしているので、配偶者居住権に基づく敷地利用権が「土地の上に存する権利」に該当しなかったら、小規模居住用宅地特例の対象にはなりません。

 

令和元年度政令改正

2019年、令和元年においては、租税特別措置法では配偶者居住権について特別な改正をしていません。

ですが、配偶者居住権に基づく敷地利用権は、小規模居住用宅地に該当すると考えられていようで、その計算規定が政令に、新たに組み入れされています。

政令規定新設の理由について財務省では「税制改正の解説」で説明をおこなっています。(下記出典ページを参照)

これによると、配偶者居住権は、借家権類似の建物についての権利であるが、配偶者居住権に付随するその目的となっている建物の敷地を利用する権利(敷地利用権)については、当然に「土地の上に存する権利」に該当すると理解されるから、ということのようでした。

 

<出典:税制改正の解説>

財務省公式ウェブサイト・税制改正の概要

https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html

 

令和2年度税制改正

財務省「税制改正の解説」の令和2年度版(2020/9/11公開)において、下記の通り記されています。

対価を伴う配偶者居住権の消滅には譲渡と同じ効果がある、所得としては総合課税の譲渡所得と考えられる、配偶者敷地利用権は「土地の上に存する権利」には該当しない。

つまり、平たく言うと、配偶者敷地利用権は、土地に関係する権利ではあるが、鉱業権・温泉利用権・借家権といった類のものであり、「土地の上に存する権利」と言われる借地権の類のものではない、ということです。(上記令和2年度版の「五配偶者居住権に係る所得税法の改正」P116以降を参照)

昨年と今年で明らかに相違しているのが実情のようです。

相続税評価

(出典:上記財務省公表の令和2年改正「所得税法等の改正」P121より抜粋)

 

土地の上に存する権利と相続税・所得税

令和元年の「税制改正の解説」での配偶者敷地利用権は相続税の改正の項目として登場しました。それに対して、令和2年の「税制改正の解説」での配偶者敷地利用権は所得税の改正の項目として解説されています。

相続税では、配偶者敷地利用権は土地の上に存する権利に該当するとされ、所得税では扱いが異なり、土地の上に存する権利には該当しない、とされたことについて、疑問の残るところです。