相続税の節税目的の養子縁組

相続税 申告

養子縁組に関する最高裁判決

相続税の節税を目的とした養子縁組の有効性が争われていた裁判で、最高裁判所は「節税目的の養子縁組であっても、ただちに無効になるとは言えない」とする初めての判断を示しました。

相続税法では、基礎控除の計算時に法定相続人一人につき基礎控除額が600万円ずつ増加します。そのため相続税の節税効果を狙う富裕層の間では孫と養子縁組するケースは主流な方法と言われていました。そこで今回の裁判所の判断は、こうした現状を追認しうるものと言えます。

 

平成25年に亡くなった当時82歳の男性は、その前年に当時1歳だった長男の息子である孫を養子にしました。その男性が亡くなった後、遺産をめぐり男性の長女と次女がこの養子縁組の無効を求めて長男側を提訴したのです。

主な争点は、男性に養子縁組の意思があったかどうかです。民法802条には、「当事者間に縁組をする意思がないとき」は縁組を無効にできると定められています。したがって節税目的で養子縁組をするとしても、本当に親子になる意思があったかどうかが問われていました。

一審の東京家庭裁判所は、男性が養子縁組の書類に自ら署名していることなどから、養子縁組は有効と判断しました。

しかし二審の東京高裁は長男が税理士を連れて節税メリットを説明した事実に言及し、「男性に孫と親子関係を創設する意思がなかった」として養子縁組を無効としました。

そして、今回の最高裁判所は「相続税の節税という動機と養子縁組をする意思は併存し得る」として、節税目的であっても「ただちに民法802条のいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」にあたることができない」と高裁決定をくつがえし、長女らの訴えを退けました。

なお、二審判決では「縁組には真の親子関係をつくる意思が必要」としていましたが、この点についての言及はありませんでした。

私道の相続評価で最高裁が審理差し戻し

上記の養子縁組の他、次の相続税に関する判例も要注目です。

具体的な内容としては、相続した土地のうち、私道として使われている部分の財産評価をめぐって納税者と自治体が争っていた裁判で、最高裁判所は自治体側の主張を全面的に認めていた高等裁判所の判決を破棄し、さらなる検討を命じる審理差し戻しの判決を下しました。私道と認定されれば税負担は7~10割減となるため、裁判の結果は不動産の相続に大きく影響する可能性があります。

私道共用宅地

相続財産の評価方法を規定した財産評価基本通達では、私道として利用されている宅地を「私道供用宅地」として、簡単に言うと、下記の評価となります。

  1. 行き止まりの生活道路など特定の人間が通行するもの   7割減評価
  2. 通り抜け道路のように不特定多数の人間が通行するもの 10割減評価(非課税)

原告は相続税の申告に当たって、まず上記2.の10割減となる評価私道として相続税申告書を提出しました。しかし、その後に上記1.の7割減私道だと修正して申告しました。

しかし税務署側は「アパートの敷地の一部であり、そもそも私道ではない『貸家建付地』である」として減額特例の適用を認めず、更正処分を決定しました。その後、不服とした原告が訴えを起こしたものです。

地方裁判所、高等裁判所の判決ではともに自治体側の訴えが認められ、納税者が敗れました。

しかし最高裁判所では上記の判断を覆し、私道に当たるかどうかは「建築基準法などの法令の制約の有無だけではない」として、「宅地の位置関係や形状、道路としての利用状況などを踏まえて、総合的に、ほかの用途に転換することが難しいかを考えるべき」との判断を示しました。